6.理想と現実の狭間

大学編

茉奈を引き取ることを決め、病院に電話をした。

退院の手続き等で、地元まで迎えに来てやってもらえないかと言われたが、その部分は茉奈の通っていた定時制高校の先生方が引き受けてくれました。

厄介だったのが警察。

犯人たちを捕まえるために、退院後、何度も事情聴取を受けてもらわないといけないから、遠くには行ってもらいたくないと。

「茉奈には、帰る家がないんです。事情聴取のために、また路上生活に戻れと言うのですか?」

「いえ、決してそういう訳ではないんですが。でも犯人を逮捕、立件するためにも、どうか協力して頂けないでしょうか。」

「だから、協力したくないわけではなくて、今、茉奈を引き取る者は、僕しかいないという現実を考えていただかないと。事情を聞きたいなら電話でやって下さい。」

こんな押し問答を何度も電話でやり取りした挙げ句、アホらしいので、無視することにしました。

そりゃ、犯人は憎い。

だが、そんなことに構っている暇と余裕はないのだ。

腫れ上がった顔は忘れられない

茉奈が上京する日。

病院の退院には、定時制高校の校長と担任、同級生のお母さんが立ち会ってくれたそうです。

そこには、母親や親戚の姿はありませんでした。

東京までの片道の交通費は、同級生のお母さんが、

「返さなくていいからね」

と、持たせてくれたそうです。

「東京には初めて行くから、東京駅まで迎えに行ってやってください。」

同級生のお母さんから、そう、連絡を受け、指定された日時に東京駅へ。

新幹線から降りてきた妹の姿は、酷いものでした。

オレンジ色に染めた髪は、ハサミやバリカンで切り刻まれたとのことで、髪が長い部分はオレンジ色、刈り上げられた部分は黒、ぐしゃぐしゃの髪型。

殴られ、通常の3倍くらいに腫れあがった顔。

ところどころ、青い痣になっている。

一番酷かったのは、目の周り。

眼底骨折をするほど殴られ、パンダのようになっていました。

医者からは、「危うく失明するところだった」と言われたそうです。

そんな妹の姿を見て、

「この妹を、果たして俺は守れるのだろうか」

と、戸惑いの気持ちが湧いてきたことを、今でも忘れられません。

「よく来たね。大変だったね。」

やっとの思いで、このひと言を、絞り出すことしかできませんでした。

何も答えずうなずくだけの妹。

東京駅から私の住んでいた町までの約1時間の電車は、

犯人たちへの怒り

父親、母親への怒り

口を出すだけで何もしない親戚への怒り

そして、妹をこんな目に遭わせてしまった自分自身への怒り

そんな思いがぐるぐると心の中を抉っていました。