8.そして妹は行方不明

大学編

年が明けた。

東京の冬も案外寒いんだなと感じていたある日、見知らぬ電話番号から着信が。

「もしもし、茉奈さんのお兄さんですか?私は梨元と申しまして・・・」

お電話いただき、『恐縮です』

「妹さんの傷害事件の件について、示談で解決させて頂きたく・・・」

この梨元という男。

電話の感じで、40代くらいか。

聞くと、茉奈と一緒に被害に遭った幸子、2人をナンパした男2人組の片方の、その父親だそうだ。

ヤクザに脅されて逆らえなかったとはいえ、自分のセガレも傷害事件の共犯になっているから、示談金を払いたい。そして、セガレの件は刑事告訴をしないで欲しいとのこと。

でも、こっちは警察も無視しているし、弁護士に依頼もしていない。

何が起こっているのかと聞いてみると、どうやら一緒に被害に遭った幸子の父親が、犯人たちに対して、弁護士を立て、責任追求をしているとのことだった。

「お金は要りません。こちらは弁護士に依頼もしていませんし、お宅の息子さんをどうこうするつもりはありませんから。」

「そうですか。でも、幸子さんのお父さんがそれでは許さないと言っているので、せめてお金を受け取って貰えませんか?」

どうしようか悩みましたが、18才の大学生にそんなことを考える知恵はありませんでした。

幸子の父親からの電話

「茉奈さんのお兄さんですね。犯人達が捕まって、今告訴するか示談にするか、うちの弁護士がやっています。うちの娘と茉奈さん合わせて300万円くらい取れそうですよ!お金で解決しましょうよ!」

なんだか、お金お金と言われて、嫌な気分になったのを覚えています。

犯人達は憎い。

でも、お金で解決というのがなんだか嫌で。

今振り返ると、考えが幼かった。

私の反応がイマイチだったので、幸子の父親は茉奈に直接連絡をするように。

100万円は子供にとって大金だよ

数日後、梨元から電話があった。

「示談金100万円を茉奈さんの口座に振り込みました。御本人から聞いていますか?」

なんということだろう。

最近、あまりうちに帰って来なくなったのは、ちょっとしたお金が手に入ったからのようだ。

それにしても、100万円ものお金、未成年が持つには、大金だ。

1週間ぶりに茉奈が帰宅したので、100万円について聞いた。

「私が痛い思いをして手に入れたお金なんやから、どう使おうと私の勝手やろ!」

「いや、それはそうやけども、使いみちは良く考えたほうがええんちゃうか?ちなみに今、幾ら残ってるんや?」

「50万くらい。」

な!

半月で50万使っちゃったの?それだけあれば、将来何か勉強したくなったりした時に活かしたり、何かしらの備えにできるのに。

「そうか。じゃあ残りは無駄遣いしないように、俺が預かっておくから。将来に備えて幾らか残しておいたほうがええやろ?」

「あんた、私の金、欲しいんやろ?」

次の瞬間、「パチンッ」と、乾いた音が6帖のワンルームに響いた。

平手打ちされて倒れた茉奈が、よくも私を殴ったなという意味合いの言葉を喚きながら、泣きじゃくって、部屋を出ていった。

そして、それ以来、茉奈はうちに戻らなかった。